ADHD(注意欠如・多動症)の診断数は、日本でも世界でも増加傾向にあります。日本では、2010年から2019年にかけて、84万人近くの人が新たに診断され、20歳以上では21倍に増加したと報告されています。世界的にも増加しており、特に米国では、3〜17歳の症例数が2016年の540万人から2022年には650万人に増加しています。
スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンは『多動脳―ADHDの真実―』の中で、その要因として、遺伝的な影響だけでなく、社会環境の変化も重要な要素であると述べています。彼は、現代社会がADHDの特性を持つ人々にとって適応しづらい環境になっていることを指摘しています。それまでは、グレーゾーンとして特に、問題とされなかった人たちが診断されるようになったとして、以下の点を強調しています。
①情報過多と集中の困難:スマートフォンやSNSの普及により、常に新しい情報が流れ込む環境になり、注意が散漫になりやすく、ADHDの特性を持つ人々にとっては特に困難な状況が生まれている。
➁ 教育・職場環境の変化:画一的な教育システムや職場のルールが、彼らの強みである創造性や驚異的な集中力(ハイパーフォーカス)を活かせる環境を不足させている。
➂運動不足:運動はADHDの症状を軽減する「天然の治療薬」である、とハンセン医師は強調していますが、スマホやパソコンに触れる時間が多くなり、運動不足となり、症状を悪化させる要因になっていると述べています。
ハンセン医師は、ADHDは障害ではなく、進化の過程で生き残った特性として考えています。ADHDの特性は適切な環境があれば強みとなる可能性があると以下のように述べています。
①注意が散漫になりやすい特性は、柔軟な思考や新しいアイデアの発想につながる創造性につながる。
➁好きなことに対しては、驚異的な集中力(ハイパーフォーカス)を発揮することがあり、芸術やスポーツの分野で優れた能力を持つことが多い。
➂リスクを恐れない行動力や衝動性が、起業家精神や革新的な挑戦につながる可能性がある。
ハンセン医師は、運動がADHDの症状を緩和する「天然の治療薬」として効果があると述べています。運動が脳内のドーパミンの分泌を促し、集中力や衝動のコントロールを助ける働きを持っているということです。

心のコラム
№29 なぜADHDは増えているのか?

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