感情労働(Emotional Labor)というのは、アメリカの社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールドによって提唱された概念です。彼女は感情労働を、「仕事で求められる感情規制に基づき、自然に生じた自分の感情を管理・操作して表出し、相手に影響を与える労働」と定義しました。
フライトアテンダントをはじめ、看護師、介護士、保育士、教師、接客業、営業職など、人との関わりの中で役割を果たす仕事には、程度の差こそあれ、必ず感情労働が含まれています。感情労働は、身体を使う身体労働、知識や判断を使う頭脳労働に続く、「第三の労働」と位置づけられています。
私たちは代金を支払うことで物やサービスを受け取ります。それは資本主義社会では、ごく自然なことです。問題なのは、「お金を払っているのだから、相手は自分の期待どおりに応える義務がある」という意識が過度に強くなってしまうことです。近年は、物の購入や飲食店だけでなく、教育や医療、福祉の現場においても、「お金を払っているのだから、相手は自分の期待どおりに応える義務がある」という意識が強まっているように思います。その結果、相手の立場や事情への想像力を失い、平然と無理難題を要求する場面も少なくありません。
かつて日本には、「お互いさま」「おかげさま」という言葉がありました。地域や職場には、人と人とを支え合う共同体の文化が息づいていました。決して理想郷ではありませんでしたが、相手も自分と同じ一人の人間であるという感覚は、今より豊かだったように思います。
感情労働に携わる人を支えるのは、お金だけではありません。「ありがとう」、「ご苦労さまでした」、「助かりました」。そんな感謝の一言が、ともすれば折れそうになる心を支えているのです。
社会の豊かさとは、便利さや効率だけでは測れません。相手を一人の人間として尊重し、思いやる心がどれだけ残っているか。その豊かさこそが、私たち自身の心を守り、感情労働に携わる人々の心も支えているのではないでしょうか。
わずかな対価で「カミサマ」を名乗るのは、少し「ゴーマン」かもしれません。自戒を込めて、「ケンキョ」に生きたいものです。

心のコラム
№79 感情労働って何?~カミサマに翻弄される心~

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