「それって、ハラスメントですよね?」カウンセリングルームでお話を伺っていると、時々そんな言葉を耳にします。不機嫌な上司の言動やいたわりのない夫の口調、施設利用者からのクレーム。
以前なら「それくらい、我慢したら」と済まされていたことが、今は「ハラスメントです」と、きちんと言葉として異議申し立てすることができるようになりました。弱い立場の人が、泣き寝入りしなくても良い社会になりました。
一方で、こんな場面もあります。「言われたとおりにやっているつもりなのに、気に入ってもらえない。」アルバイトを辞めるか迷っている学生が訴えます。彼は怠けているわけではありませんが、段取りが悪く、仕事が遅いことを叱られているようでした。真面目で、優しくて、周囲に気づかいのできる学生です。
今の若者は、とても大切に育てられてきました。家庭でも学校でも、「傷つかないように」「傷つけないように」ことさら注意を払ってきました。人の痛みに敏感で、無神経な人を嫌う世代として育ちました。これは誇っていいことです。
けれど、社会は、世代や成育環境の異なる多様な人たちで構成されています。相手を思いやる言葉も、部下の育て方も、世代によって「普通」が異なります。ハラスメントという言葉は、確かに弱い立場の人を守る武器になります。しかし、傷つかないことを最優先にして生きていると、挑戦することに臆病になります。
失敗して恥をかくくらいなら、「このままでいい」と立ち止まってしまう若者もいるといわれます。もしご自分の息子さんやお嬢さんが、社会人になって間もないのに、「もう無理」と言うと、ご両親には甘えに思えるかもしれません。しかし、優しさの中で育った彼ら彼女たちにとっては、本当のSOSかもしれません。
その見極めは、家族だけでは難しいこともあります。誰かに守られる側から、誰かを守る側へ。それは誰にとっても、少し怖い一歩です。だから途中で立ち止まることもあります。迷うこともあります。
「それってハラスメントですよね?」と言いたくなる気持ちを、一度自分の中でゆっくり整理してみる時間も必要かもしれません。それが、本当に自分を守るための言葉なのか、それとも不安や戸惑いの表れなのか。

心のコラム
№60 それってハラスメントですよね? ~優しすぎる若者たちのSOS~

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