感情労働とは、自分の感情をコントロールしながら、仕事にふさわしい表情や態度で人と接する仕事です。そのため、医療、介護、教育、接客業など、人を相手にする職業では、感情を抑え続けることにより心身が疲れ果て、バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥る人も少なくありません。
こうした慢性的な人手不足に悩む感情労働の現場で、大きな期待を集めているのが「フィジカルAI」です。これまでAIといえば、画面の中で対話するチャットボットや生成AIが中心でした。しかし最近では、人間のような身体を持つヒューマノイドや介護・接客ロボットの実用化が現実味を帯びています。
介護の現場では、お年寄りの立ち上がりを支える際、単に身体を持ち上げればよいわけではありません。近づく速度、手を添える位置、声のかけ方、視線の合わせ方によって、安心感にも不安にも変わります。
私たちは人間に似た身体やしぐさを目にすると、相手に心があるかのように感じる性質があります。相手がロボットだと分かっていても、「やさしく接してほしい」「気持ちを分かってほしい」と期待してしまうのです。フィジカルAIにも、「安心感を与える表情や声、しぐさ」が求められるようになるでしょう。
『感情労働の未来』の著者、恩蔵詢子さんは、未来社会では感情労働は機械に置き換えられるのではなく、むしろ人間にしかできない価値として、その重要性を増していくと述べています。
相手の空気を感じること。沈黙の意味を読み取ること。言葉にならない不安を察すること。そして、自分自身も迷い、悩み、ときには傷つきながら、それでも相手に寄り添おうとすること。こうした営みは、人間だからこそできる感情労働ではないでしょうか。フィジカルAIも、いずれ私たちを支える身近なパートナーになってくれるでしょう。しかし、私たちを超える存在としてではなく、私たちに寄り添う存在として発達してほしいものです。
フィジカルAIに、やさしさをプログラムできるのでしょうか。
私たちの沈黙の中にある痛みや悲しみまでも理解し、寄り添うことを「AI」に求めるのでしょうか。それとも、人にしかできないぬくもりや思いやりを、これからも大切にしていくのでしょうか。
その未来を選ぶのは、AIではなく、私たち人間なのです。

心のコラム
№80 やさしさをプログラムできるのか? ~フィジカルAIと感情労働~

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