妻は、夫の「忘れた」という言葉をほとんど信じていません。夫は、「そんなことがあったかな」「全然覚えていない」と言いますが、妻は「都合が悪いから忘れたふりをしているだけ」と心の中では思っています。
結婚当初の心ない一言、義両親に理不尽なことを言われた日の悔しさ、妊娠中や病気のときに放置された寂しさ…。30年近く前の出来事でも、妻は驚くほど鮮明に覚えています。
脳科学者の黒川伊保子さんによれば、男性脳は「今この瞬間」に集中するようできており、過去の細かな出来事は記憶に残りにくいということです。夫が忘れやすいのは脳の仕組みであり、あながち嘘を言っている訳ではないのです。一方、女性脳は出来事と感情をセットで保存する特徴があるということです。
特に、浮気や義両親から守ってくれなかったこと、辛い時期に寄り添ってもらえなかったことなどの「心が傷ついた記憶」は年月が経っても消えることはありません。夫が「忘れた、覚えてない」という言葉に、妻は「忘れるはずがない」と怒るのは、こうした、男性と女性の「記憶装置の違い」が一因なのかもしれません。
夫が悪意で忘れているわけではないと理解できると、妻の怒りも少しは和らぐのではないでしょうか。しかし、だからといって妻の痛みが自然に消えるわけではありません。むしろ、誰にも言えずに抱え込むことにより、記憶は強まり、苦しさが深くなっていくこともあります。
そんな時は、自分の気持ちを言葉として整理し、誰か話すことも大切です。「夫は忘れたと言うけれど、私は許せない」、「この気持ちを誰かに分かってほしい」、そんな思いを抱えているようでしたら、一度カウンセリングルームにおいでください。一人で背負い続けず、そのお気持ちを話してください。心の荷物は、言葉にすることで少しずつ軽くなっていくものです。
